第5章 対峙と邂逅
経が終わると娘は手をついて深々と頭を下げた。
「この子の供養をしてくれる人は今まで誰一人としておりませんでした。本当にありがとうございます…」
「これが私の務めでございますから」
八重もまた頭を深く下げた。
そして、頭を上げると娘を真っ直ぐ見つめた。
眼差しは真剣なものに変わっている。
「私は貴女に起こったことに心当たりがございます。しかし、私にはそれを解決する手立てがございません。もし、貴女がよろしければ、解決できる可能性がある方に見ていただきませんか?」
「そんな方がいるのですか?」
「はい。ただ、私もお会いしたことはなく、旅をしているにあたり知り得たものですので確実ではないのですが…いかがでしょうか?」
「…お願いします!この子が何者なのか、どうして産まれたのか、私は知りたい!」
(あぁ、この人は立派な母親だ)
八重はそう思った。
だからこそ、より一層この娘を救ってやりたいと想いが強まった。
「その方は山向こうの寺にいるらしいです。産後の肥立ちもままならないとは思いますが、早い方がいいでしょう。明日にでも出発しませんか?私もご一緒しますから」
翌日、八重と娘は山向こうの寺を目指した。
娘の腕には包みに包まれた子がしっかりと抱かれていた。
一緒に歩いていると、次々と呪霊が娘に寄ってくる。
娘には呪霊が見えてないようだった。
八重が娘を気遣うように手を取ると呪霊は娘を見失ったように去っていった。
それに気づいた八重は道中娘の手を取り歩くようにした。
「…比丘尼様はどうしてこんなにも手を尽くしてくれるのですか?」
あまりにも献身的な八重に娘は思わず問うてしまった。
八重は優しく微笑んで、「仏の教えに従っているだけですよ」と言った。
『仏の教え』とは良く言ったものだ。
仏を隠れ蓑にして人を救い、それに自分が救われているのだなんて口が裂けても言えない。
そんなこと仏にだって言えはしない。