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【呪術廻戦】誰も知らない

第5章 対峙と邂逅


年号が明治と変わって少し経った頃だった。
八重はある山の麓の町に辿り着いた。
町に入った瞬間、雰囲気がどこかおかしいことに気付く。
呪霊や呪いとは違う類の、人の畏れや悪意が空気に混じっているような。

「もし。旅の比丘尼でございますが、この町に寺院はございますか?ご挨拶に伺いたいので教えていただければ幸いです」

最初に見つけた町人に話しかける。
警戒しているのか険しい顔をしていたが、相手が比丘尼とわかると安堵したように表情を緩めた。
町人によるとこの町の寺はもう機能していないという。
明治に入ってからはこういう寺が増えていたので驚くことはなかった。
ただの建築物に成り果てた寺を参拝し、周辺を見て回る。
境内の雨宿りできそうなところで泊まらせてもらうことにする。
支度を済ませて、町内の家に挨拶をして念仏を唱えて回る。
どこの家も初めに会った町人と同様に最初の警戒心が強い。
話をすると酷く安堵した様子を見せる。
回る家が増えることに八重の疑念が膨らんでいく。
そして、ある屋敷に挨拶に行ったときである。
家の者は驚いてはいたが、「ぜひうちの娘のことを見て欲しい」と母親であろう女に縋られた。
2つ返事で了承すると、屋敷の中に招かれた。
連れて行かれたのは屋敷の中でも最も奥の座敷だった。
一人の娘が何かを抱えて泣いている。
八重が部屋に入ってもこちらも振り向く気配はない。
母親が説明してくれる。
身に覚えのない懐妊をしたこと。
生まれた子どもは異形であること。
そのことを町の人々が知り、疎外されていること。
そこで八重は初めてこの町に入った時からの違和感に納得した。
娘に起こった怪異を皆、畏れている。
畏れから距離を置こうと攻撃的になっている。
八重はそっと娘に近づいた。
娘の傍らに膝をつくと、その肩に優しく手をかけた。

「お身体に障りはありませんか?」

そこで初めて娘は顔を上げた。
泣き腫らした目が痛々しい。
それでも、安心させたくて八重は優しく微笑んだ。

「大変でしたね。私は旅の比丘尼です。私に何か出来ることがあるかもしれません。お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

娘の瞳から大粒の涙が零れ、八重に縋りついて泣き始めた。
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