第24章 いとほし日々[中編]
五条の宿題に溜息を付きつつ、今日は来訪者が多いなと改めて思っていた。
もしかしたら脹相も来るかもしれない、と過ぎる思考を眉間を押さえて払拭する。
でも、もしも虎杖に言われたあの言葉が、五条に言われたあの言葉が、脹相に言われたものであったなら――
自分は素直に聞き入れることができただろうか、と八重は自問する。
薨星宮での脹相の変化を目の当たりにして以降、そして力を使うことを禁じられた一件以降、脹相から向けられる言葉には言い返してしまうことが多かった。
以前の八重ならば従順に従っていたはずだ。
どうして以前のように、もしくは他の人の言葉のように、素直に受け取ることができないのだろうか。
八重は耳の奥で鳴り響く単調な波の音を聞きながらぼんやりと考えていた。
脹相が人間らしく変わってしまったからだろうか?
(それは違う。それはとても良いことだと思っている)
脹相を変えた人への嫉妬だろうか?
(それも違う。もし、それがあったとしてもそれを向けるのは脹相にではないはず)
脹相に力の使用を禁じられて怒っているのだろうか?
(それも違う…どちらかというと悲しい、かな…?)
自分の存在意義を否定されたように感じて悲しさがあった。
(でも、それで言い返すなんて……そんなこと……それって……私は……私を…)
理解して欲しかったのだと気付いた。
気付いた瞬間、毛が逆立つような感覚を覚えた。
(私は…なんて――
―図々しく、厚かましいことを…)
相手の気持ちなど推し量りもせず、自分の気持ちばかり押し付けようだなんて。
自分はなんて恥ずべきことをしていたのだろうと自覚してしまった。
穴があったら入りたいなんてものじゃない。
自分で墓穴を掘って埋まりたいほどの気持ちが沸き上がる。
満月の日であるから、殊更に気持ちに抑えが利かない。
布団の中で自分の身体を抱き締めてただ身悶える。
そうして、かなりの時間を要したが気持ちが落ち着くまで待ち、ある程度の落ち着きを取り戻してから、むしろそれを自覚できたことは好機であるとポジティブに考えるように努力する。
(分かっていれば、そんな厚かましいことをしないで済む。明日からは自制して生活しよう)
そう自分に言い聞かせることができた。