第27章 【脹相】へる日々
話題は違えどそれは地下室でしたやり取りのようだった。
自己犠牲に走る八重とそれに不快感を抱く脹相。
それに逸早く気付いたのは脹相で一度言葉を切った。
しかし、八重の言葉は止まらない。
「それに手が空いた時は図書室で本なども読んでいるんですよ?新しいことを知ることができて楽しいです」
「…それは料理の本を見て献立を考えているだけだろう?休みのうちに入らない」
「でも、私は苦ではありません」
こういう時の八重は普段からは想像できないほど食い下がってくる。
いつもならば「わかりました」と笑顔で引くというのに。
(やはり、俺の言葉ではダメなのか…?)
自らの言葉では八重は止まらない。
では、どうすればと考え終わる前に。
「……どうして、脹相は…」
そう言って八重は口を噤んだ。
(「どうしていつもそんなことを言うのか?」とでも訊くのか…?)
しかし、脹相自身もその答えを持っていない。
どうすれば閉じた貝のように頑なな八重が自分の言葉を聞き入れてくれるかもわからない。
「……悠仁が、お前のことを気にしていた。心配をかけるな」
その言葉に八重は息を飲んだ。
「…わかりました。気をつけます」
そうしてまた虎杖の名前を出してでしか八重を止めることが出来なかった。
八重はゆっくりと視線を下げるとまたシンクに向かい食器を手にした。
その瞳に映るシンクの水面はまるで泣いているように揺らいでいて、脹相の胸にいつか感じた差し込むような痛みが蘇る。
(どうして俺はあんな顔しかさせられない…?)
何か声をかけてやりたくて脹相は一度大きく息を吸ったが、結局何を言っていいのかわからず、「無理はするな」とだけ呟いて厨房を後にした。