第24章 いとほし日々[中編]
八重は布団から顔を出してドアを見た。
聞き間違いではなかろうかと息を殺す。
そんな八重を慮るように再びノックが鳴る。
「八重さん、起きてる?」
虎杖の声だった。
いつもの明るさはなく眉を下げている表情まで見えそうな、そんな声だった。
ドアを開けるべきか迷ったが、今日の八重はそんな顔をした虎杖を受け止められる自信がない。
「…はい、起きてます」
結局はドア越しに返事をした。
それを聞いて、「あ、よかった」と虎杖の声に安堵が浮かぶ。
「今日、朝飯が八重さんの味じゃなかったからさ。どこ見ても八重さんいないし。新田さんに訊いたら、今日体調悪いって聞いて……大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません。申しておりませんでしたが、1ヶ月に1度ほどこのようなことがありまして……慣れておりますので、明日にはまたいつもどおりに戻ります」
そういえば、虎杖達と行動を共にしてから初めての満月である。
満月の時の状態も説明はしていなかった。
それは心配もかけるはずだ。
「あっ、あー、そうだよな、八重さんだってそういう時もあるよな……ごめん!俺、デリカシーなかったかも!」
「?…いえ、私も事前に言っていなかったので…申し訳ないです」
急に何かを理解したような虎杖の態度と“でりかしー”の意味はわからないが文脈的に“配慮に欠けた”と言っているのだろうと推測した八重はこちらこそ至らなかったと思った。
「皆さんにもそのようにお伝えいただけますか?」
「え、いや!みんなに言うのはちょっとアレでしょ!」
「?……あぁ、そうですね。では、私の事情を知っている人だけ、ですかね?」
何を焦っているのかと思ったが、八百比丘尼のことを知らない人にまでいう必要はない。
「えーっと、脹相にはどうする?」
「はい、お願いします」
「うぇっ、えー、マジかー……わかった!じゃあ、とりあえず八重さんはゆっくり休んで!あと、何か必要な物とかあったら呼んで!」
「はい、ありがとうございます」
軽快に去っていく足音に息をつく。
虎杖のまっすぐな暖かさは海で満ち満ちている心を丸ごと覆ってくれるようだった。
また明日、いつもの味噌汁を振る舞おうとクスリと笑い、再び布団へと戻っていった。