第4章 天元様
天元の話を聞き終えて、次は八重の話をした。
取り留めのない話でも天元は静かに聞いてくれた。
「それで、私はあの場所に佇んでいたのです」
そう締めくくられた八重の話が終わった頃には夜もだいぶ更けていた。
夕飯も食べずに話し込んでいた。
「すみません、こんなに遅くになってしまって」
「かまわないよ。今からでも何か食べようか?」
「私は大丈夫です。天元様は何か召し上がってください」
「私もいらない。しかし、そうだな。茶でも飲みながら今ある私の知識だけで、八重に起こっていることの考察をしてみようか?」
そう言って使用人を呼び、茶と茶菓子を持ってこさせた。
「さて、まず八重の父が持って帰り、そして八重が病の際に食べさせられたという物だが、それは俗に言う〝人魚の肉〟という物だと思われる」
「〝人魚の肉〟ですか…?」
「お前の村で知る人はいなかったようだが、この国の至る所でそのような話はあるんだよ。〝人魚の肉〟を食べると不老不死になるってね」
「そうなんですか…じゃあ」
「八重の他にも不老不死になった者がいるか、だね?それは今時点ではわからない。私はそれなりに長く生きているつもりだが、未だに不老不死の人間には会ったことがない」
「そこで、ここからは推論だが…〝7歳までは神のうち〟という言葉を聞いたことはあるかい?」
八重は首を振った。
「これは7歳までは死亡しやすいというように使われる言葉ではあるが、あながち間違いでもなくてね。7歳までの子どもはそれ以降とは違う領域にいるんだよ。蛇足かもしれんが、呪術師もこのくらいの年齢には術式の有無がわかる。そんな時期に神の遣いとも言われる〝人魚の肉〟を食べたんだ、常人より一段神に近づいたと言ってもいいだろう」
天元は茶を啜った。
八重は固唾を飲んで天元の言葉を待つ。
「呪術界では『天与呪縛』というものがあってね。それは生まれながらに何らかの『縛り』を強制させられる代わりに大きな力を得る者がいる。八重の状況は言うなれば後天的な『天与呪縛』と捉えることもできる。では、八重の不老不死は『縛り』なのか、それとも何らかの『縛り』の上に与えられた能力なのか…」