第23章 いとほし日々[前編]
「こちらに置いていただけますか?」
脹相と共に厨房に入ると、八重は隅にあるシンクの脇を示した。
脹相はドスリと盆を置くと、「他にも盆はあるか?」と訊いた。
八重は「え?」と聞き返すと、ブスッとした顔で「残りも持ってくる」とだけ言う。
「え…と」と言い淀む八重を尻目に脹相は自分で盆を見つけて手に取っていた。
「割らないようにする」
そう言って厨房を出ていってしまった。
都内で呪霊狩りをしていた期間だって一度も手伝いなどしなかった脹相がいきなり何の風の吹き回しであろうかと八重は考えを巡らせるが、とんと見当もつかない。
とりあえずシンクにお湯を張り、そこに回収した食器を入れていく。
たくさん料理を作ったつもりだったが回収した皿にはほとんど残っておらず綺麗なものだった。
(もっと作ったほうがよかったのかな…)
そうも思ったが、思い返せばパーティが終わろういう時に「八重さんの料理を残すわけにはいかない!」と虎杖が懸命に食べていたのを思い出した。
それまでもたくさん食べていたのに、そこからあれだけ食べられるのだから10代男子の食欲には驚かされた。
そんな虎杖を思い出し「ふふ」っと笑っていると、第二弾の食器の山を持った脹相が「何が可笑しい?」と尋ねてきた。
「いえ、悠仁くんがたくさん食べてくれたのが嬉しかったので、つい」
「悠仁は育ち盛りだからな」
脹相が誇らしそうに鼻を鳴らす。
八重はさらに笑みを深くする。
脹相から皿を受け取り、「ありがとうございました。あとは私がやりますので」と言っても脹相は去る気配を見せない。
不思議に思いながらも構わず八重は八重の仕事をする。
しばらくは八重が食器を濯ぐカチャカチャという音だけが辺りに鳴っていた。
そうして八重が脹相の気配を気にしなくなった頃。
八重の左右から腕がにゅっと伸びてきて、シンクのふちに手が置かれた。
もちろん脹相のものなのだが、右も左も腕で囲われ、背中には体温を感じるほど近くに脹相の身体がある。
逃げ場が完全にない状況のためなのか、八重はドキリとした。
それを脹相に気取られないように、一瞬止まった手を無理やり動かす。
耳元で大きく深い溜息が聞こえて、思った以上に脹相の顔が近くにあることを知る。