第23章 いとほし日々[前編]
「別にいいよ。それより、八重は“五条悟”を知らないの?」
そう問われれば。
「はい、お会いしたことはありません。悠仁くんの担任の先生とのことですが……ご存じですか?」
と問い返していた。
男は問いが返ってくるとは思っていなかったようで、驚いたような変な顔で少し考える。
「ん?あー、グッドルッキングガイだね」
「“ぐっどるっきんぐがい”……すみません、南蛮語はわからないもので……それは褒め言葉でしょうか?」
「君、随分古風な言い回しするね…ま、その言い回しに寄せるなら“見目麗しい男子”ってところかなー」
「そうなのですか……それはあなた様よりも、ということでしょうか?」
八重の言葉に男が一瞬止まった。
そして口から出たのは。
「は?」
だった。
「私からしますと、あなた様も随分“見目麗しい”ものですから」
大真面目に答える八重を男はしばらく見つめていたが、「ふっ」と息を吐いた。
「ははは、八重、面白いねー。気に入った」
そう可笑しそうに笑い、「あぁ、僕と同じくらい、かな?」と八重の問いにも楽しそうに答えた。
自分は何か笑わせることを言ったのだろうか、と不思議そうな顔をしている八重の頭を男はポンポンと叩く。
「ちなみに八重はこれから何する予定?」
「はい。これを取り込んだら今晩の“ぱーてぃ”…あ、五条悟さんのおかえりなさいの宴なんですけど…そこで出すお料理の準備をさせていただきます。あ、これは“さぷらいず”なので五条さんには内緒ですよ」
「へー、サプライズ、ね。…それ、僕も手伝うよ」
「え、いえいえ、今お帰りになったばかりですよね?夜までゆっくりなさってください」
「いーのいーの。どうせ、人、足りてないでしょ?」
取り込んだ洗濯物が入っている籠を持ち上げると「これ、どこに持ってく?」と歩き始める。
八重は「あー、そんな」と恐縮して籠を取り返そうするが、長身である男が頭の上に掲げれば叶わなかった。
「あの、あなた様のお名前をまだ伺っておりませんでした」
「名前?名乗るほどの者じゃないよ」
そうはぐらかされ、ついぞ聞けずじまいになってしまったのだが、この数時間後、八重は今まで出したことのない声を出して驚愕することは言うまでもない。