第23章 いとほし日々[前編]
その日は獄門疆の封印を解いて、五条悟を助け出すという名目でほとんどの高専メンバーは埼玉の第四修練場に向かっていた。
出かける前に虎杖から「帰ってきたら五条先生のおかえりパーティやろう!」と言われており、今日の夕食はいつもよりも奮発しようと八重は気合いを入れていた。
まだ昼過ぎではあるが朝から干していた洗濯物は乾いているため、まずはそれを取り込んでいた。
すると。
「たっだいまー」
軽薄な声が庭に響く。
「あれ?皆いなくない?『祝・帰還!』みたいなのないの?」
声の方を見れば、わざとらしく手をかざして周りを見渡す白髪の男がいた。
ひどく綺麗な顔立ちをしている。
周囲に走らせていた男の視線が八重を捉えた。
雲一つない空のように澄んだ青い瞳をしている。
「え、と…今日は五条悟さんという方の封印を解くのに埼玉まで行くとのことで、ほとんどの方が外出しております」
八重は知っていることを話したのだが、男はその碧眼を見開いて八重をジッと見つめた。
その視線に八重は「?」と不思議そうな顔をするが、「てか、君、誰?」と問われたことで合点がいき、慌てて頭を下げた。
「あ…初対面で名乗りもせず申し訳ありません。私は八重と申します。みなさんの身の回りのことをやらせていただいております」
男は「ふーん…」と未だ八重から視線は外さない。
八重は下げた頭を持ち上げる最中、男の右腕が目に入り、途端に顔を強張らせた。
「お怪我をされているのですか!?」
右腕に少なくはない量の血がついている。
八重は取り込んだ洗濯の中からタオルを掴むと男に駆け寄り、腕にタオルを押し当てた。
男は今度は驚いたように目を見開き、その後に目を細めた。
「これ、僕の血じゃないよ」
男は八重の手をやんわり退けさせるとタオルでゴシゴシ擦って腕を見せた。
腕についていた血液はタオルに移し取られていた。
「ほら、返り血」
そう言って血のついたタオルを八重に渡した。
八重は素直にタオルを受け取る。
「あ、本当ですね。申し訳ありませんでした。確認もせず」
再び頭を下げた。