第23章 いとほし日々[前編]
「…やっぱ、八重さんの味噌汁、味薄いけど美味いわ」
八重が作った味噌汁を飲んだ虎杖の表情は先程よりもさらに柔らかくなったようだった。
「おにぎりも作らせてもらいました。食べられそうならどうぞ」
皿に盛られた沢山のおにぎりに虎杖は少し目を開いたが、ひとつ掴むと大口を開けてかぶりつき、三口で食べた。
そして、次に手を伸ばす。
その姿に八重も少しだけ表情が綻んだ。
「皆さんの分もあるので、どうぞ召し上がってください」
そう声をかけると大きな鍋からどんどん味噌汁をお椀に注いで準備した。
虎杖がむしゃむしゃ食べる姿に触発されたのか、その場にいる者たちは次々に味噌汁とおにぎりを受け取り、食べ始めた。
それだけなのに、何故だか場が少しだけ和やかになったようだった。
だいたい全員に行き渡ったところで、脹相はまだ壁際に立って周りをただ眺めているのに気付いた八重は、味噌汁を持って近づいた。
「…脹相も、どうぞ」
地下室でのことがまだ完全に心から抜けたわけではない。
しかし、自分の手から味噌汁を受け取り、口をつけ、「…薄いな」といつも通りの感想をくれる脹相に以前の日常が戻ってきたように感じた。
(…これでいいんだ。私は脹相の望むようにあれば、それで…)
そう自分に言い聞かせるだけの理由にするには充分だった。
食事が終わって、皆はこれからのことを話し合うらしいので術師でもない八重は食器を下げながら部屋を後にした。
食堂に食器を運び、洗おうとしていたところで「あ、すみませんッス」と声をかけられた。
食事を作りたい旨を申し出た時に対応してくれた補助監督だった。
名前は新田と名乗っていた。
「食事の用意してもらって、片付けまでお願いできないッス。ここは私に任せてください」
そう言うがたぶん今はそんなことに高専サイドの人員を割いている場合ではないことくらい八重もわかっている。
「ありがとうございます。しかし、ここは私にやらせていただけないでしょうか?私は術師ではありませんので、呪術のことではお役に立てません。せめて、皆さんの身の回りのことをさせていただけないでしょうか?」
そこに「補助監督の方々もたくさんやることがあるのですよね?」と付け加えれば、新田は思考を巡らせてから「じゃあ」と任せてくれたのだった。