第22章 【脹相】繋縛
「…昨日、気付いたら身体の痛みがなくなっていた。前にも、乙骨と合流した後、拠点でそう感じた時があった。その後、お前が痛がっていると感じた。昨日もそうだった……お前が何かしたのか?」
心の中では本当のことを話してくれと願いながらそんな問いを口にすれば、八重は脹相の方は見ず、躊躇いながら「私は他人の痛みを肩代わりできる力があります」と言う。
(それだけじゃないだろう…!)
沸く感情を押し留める。
「…それだけか?」
「え…」と八重は固まって沈黙する。
脹相から何か話し出すのを待っているのかもしれないが、脹相も口は開かない。
ただ八重が言葉を紡ぐのを待つ。
「…それくらいしか使ったことがないので…わかりません」
脹相は目を見開いた。
(八重が――俺に嘘をついた――)
脹相の思考は停止した。
脹相は無意識のところで、八重は自分には誠実であると思い込んでいた。
ちゃんと向き合えば真実を語ってくれると。
しかし、今の言葉は天元から聞いていたものとは異なるものだ。
「…そうか」
それでも止まった思考は、そんなはずはない、もしかしたら天元の言葉が間違いなのかもしれない、と八重を擁護する方向へ転がり始める。
それなのに、八重の口からはそれをも許さぬ言葉が出てくる。
「でも、痛みを引き受けても不老不死の効果で次の日にはなくなるんです。だから、私が引き受けた方が効率がいいのではないでしょうか」
いつもの穏やかな話し方とは対照的に、捲し立てるように駆け足で飛び出すその言葉に耳を疑った。
数日前と同じ、脹相の臓腑が焼かれるような感覚が息を吹き返してくる。
それを外へと撒き散らないよう必死に抑える。
確かめなければ。
「……それは…お前の、本心か…?」
「…お前は、それを…本気で言っているのか…?」
(守ると決めた俺に、それを言うのか…?)
八重の瞳は初めは怯えたようだったのに、一呼吸後には意思が宿っていた。
そして、凛とする。
「はい、本心です」
その言葉で脹相の中の焼く炎は性質を変えた。
背筋も凍らせるような冷たい炎へと。