第4章 天元様
村から遠ざかるにつれて八重の目には不思議なものが映るようになってきた。
それは人間でもなく動物でもない異形の何か。
今まで生きてきた中では目にしたことがない、禍々しいものだった。
(何、これ?怖い…)
八重は思わず天元の着物の裾を握りしめた。
身体は微かに震えている。
「おや、呪霊が見えるのかい?大丈夫だよ、結界を張っているからこちらには気づかないだろう」
(じゅ…れい?)
八重には初めて聞く言葉だった。
「呪霊を見るのは初めてかい?」
八重はコクリと頷く。
「そうか。そういえばお前がいた辺りには呪霊はほとんどいなかったね。そこら辺もあとで調べておくか」
向こうから見えなくともこちらからは見える。
八重は初めて見る呪霊に怯え、始終天元の腕にしがみつくようにして歩いた。
「ほら、もう顔を上げて大丈夫だよ。ここからは私の結界内だから呪霊はいないからね」
しばらくして着いたのはとても大きな屋敷だった。
使用人が何人もいて、天元と歩く八重に皆会釈をした。
それだけでも天元が高名な人物なのだろうなと八重は思った。
屋敷に入ると風呂に入るように言われた。
実を言うと八重は風呂に入ったことがなかった。
庶民の家にそんなものはない時代だった。
入り方が分からずにまごまごしていると使用人の1人が付き添ってくれ、頭の先から足先まで洗われた。
他人に裸を見られるのも抵抗があるのに、体の隅々まで触られて軽いショックを受けつつも温かい湯に浸かれば固くなった身も心も解れていった。
大きく息を吸って、ゆっくり吐き出す。
そうしてようやく八重は息を吹き返したような気持ちになった。