第4章 天元様
最後の村人が死んでから、八重は何十年とうずくまったままだった。
「お前は人間か?」
不意に声がした。
落ち着いていて聡明そうな声だった。
八重は声の主を見上げる。
そこには白髪の長い髪を無造作におろしている女がいた。
無表情に少しの警戒心を宿した表情で八重を見下ろしている。
「お前は人間なのか?」
その人物はもう一度同じことを訊いた。
八重は何かを言おうと口を開いたが声にならなかった。
何十年も声を出していなかったからか、声が出なかった。
八重は喉に手をやり、声が出ないことを身振りで伝えた。
それをすんなり受け止めた女は、八重に口を開けるように言った。
素直に開かれた口の中を女は覗き込んだ。
「見た感じだと発音に必要な器官が悪くなっているようには見えないね。私と一緒においで。薬を煎じてやろう」
そういうと踵を返して歩き始めた。
八重が付いてきているかなど気にしていないのか後ろを振り向く様子はない。
八重は慌てて立ち上がり一歩踏み出したところで、足がもつれて転んだ。
話し方同様、歩き方まで忘れてしまったようだった。
前を歩いていた女はそれに気がつくと戻ってきて手を貸して立ち上がらせてくれた。
そして、今度は八重を支えながら歩いてくれた。
(…優しい、人なんだ)
「私の名前は天元。呪術師をやっている者さ」
八重は女に負担をかけないようにできるだけ自分の足で地面を踏みしめて歩くように心がけた。