第3章 鋼の心と、優しい掌【鬼滅/子鉄夢】
「はい、そこ! 動きが鈍いですよ! 昨日の怪我を言い訳にするなら、今すぐ修行なんてやめてください!」
雲一つない青空の下、子鉄くんの鋭い叱咤が響く。
怪我から復帰したあたしは、再び「縁壱零式」の前に立っていた。
絡繰(からくり)の放つ六本の腕が、容赦なくあたしを追い詰める。
けれど、不思議と体は軽かった。あの日、彼が背負ってくれた背中の温もりが、まだ残っている気がしたから。
「……っ、そこだ!!」
鋭い一閃。絡繰の動きを読み切り、あたしの竹刀がその隙間を突いた。
「……へぇ。今の、少しはマシでしたね」
子鉄くんは鼻を鳴らすけれど、その瞳はキラキラと輝いている。
「合格です。今日の修行はここまで! さっさと片付けてください」
「ふふ、ありがとう子鉄くん。今日は頑張ったお礼に、あたしが夕飯を作るね」
「……別に、そんなのいりませんよ。……でも、まぁ、あんたがどうしてもって言うなら、食べてあげなくもないですけど」
相変わらずの素直じゃない物言いに、思わず笑みがこぼれる。
里の片隅にある小さな台所。
あたしは心を込めて、子鉄くんの大好物を作った。
今夜の献立は、たっぷりの根菜を入れた「特製豚汁」と、お礼の気持ちを込めた「甘い厚焼き玉子」。
「……いただきます」
子鉄くんは恐る恐る、玉子焼きを口に運んだ。
もぐもぐと動かしていた手が、ふと止まる。
「……どう? 子鉄くん」
「……甘い。甘すぎます、これ。砂糖の入れすぎじゃないですか?」
そう毒を吐きながらも、彼は二切れ目、三切れ目と箸を休めない。
「でも、まぁ……。あんたみたいに、抜けてる味でいいんじゃないですか」
「それ、褒めてる?」
「さあね」
彼はふいっと顔を背けたけれど、その頬は夕焼けみたいに赤かった。
「……あの。美味しかったです。ごちそうさま」
小さな声で呟かれた、精一杯の「ありがとう」。
湯気の向こう側で笑い合う、何気ない日常。
戦いの日々の中で、この温かい時間こそが、あたしの折れない鋼の心を作っていくんだと感じたのであった。
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