第3章 鋼の心と、優しい掌【鬼滅/子鉄夢】
平和な夜は、無慈悲な咆哮によって引き裂かれた。
里に響き渡る緊急事態の鐘の音。
それと同時に、あたしたちの居る作業場を強烈な衝撃が襲う。
「うわあああっ!?」
「子鉄くん!!」
爆風に吹き飛ばされた子鉄くんを、あたしは咄嗟に抱きとめた。
煙の向こうから現れたのは、これまでの鬼とは格が違う、不気味で禍々しい紋様を持つ「上弦の鬼」だった。
「……あはは、見つけた。ここが刀鍛冶の里か。壊し甲斐がありそうだ」
鬼の冷酷な笑い声に、子鉄くんの体が小刻みに震える。
「ひっ……あ、ああ……」
無理もない。
呼吸もできないほどの威圧感。
あたしの心臓も、壊れた鐘みたいに激しく警鐘を鳴らしている。
「……子鉄くん、隠れてて。絶対に、出てきちゃダメだよ」
あたしは震える足に力を込め、腰の刀を引き抜いた。
「な、何を言ってるんですか! 相手は上弦ですよ!? あんた一人で勝てるわけないだろ!」
子鉄くんが服の裾を掴んで必死に引き止める。
その瞳には、恐怖と、あたしを失うことへの絶望が混ざっていた。
「……勝つか負けるかじゃないの。あたしが、あんたを守るの」
あたしは彼の小さな手をそっと解き、真っ直ぐに鬼を見据えた。
「子鉄くんがいたから、あたしは強くなれた。……今度はあたしが、君の未来を守る番だよ」
「生意気な小娘だ。その威勢、いつまで持つかな?」
鬼が地を蹴り、一瞬で間合いを詰めてくる。
「……っ、全集中!!」
視界が極限まで研ぎ澄まされる。
肺が焼けるような呼吸。
背後で「死なないで!!」と叫ぶ子鉄くんの声が聞こえる。
一撃、また一撃。防戦一方で体中が切り刻まれ、意識が朦朧としてくる。
けれど、倒れるわけにはいかない。
もしここで、あたしが膝をつけば――。
この不器用で、優しくて、大切な少年が殺されてしまう。
「……あたしは、折れない。君が作ってくれた、この刀も、心も!!」
血反吐を吐きながら、あたしは決死の覚悟で刃を振るった。 仲間を守るための、命を賭した戦いが今、幕を開ける。
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