第2章 霞の少年と、隠された真実【番外編/無一郎夢】
雨の日の合同任務から数日。
あたしと無一郎は、任務の報告を終えた帰り道、夕暮れに染まる銀杏並木を歩いていた。
ふとした沈黙の中、風に舞う黄金色の葉を眺めながら、あたしは口を開く。
「……ねえ、無一郎。私、最近思うんだ」
「何を?」
「誰かのためにすることは、結局、巡り巡って自分に返ってくるものなんだよ。だから、私があなたを助けたいと思うのも、きっと私自身のためでもあるのかもね」
何気なく言った、その言葉だった。
隣を歩いていた無一郎が、弾かれたように足を止める。
「……え?」
「無一郎……?」
不思議に思って覗き込むと、彼の瞳が大きく見開かれ、小刻みに震えていた。
(……人のためにすることは、巡り巡って自分のためになる)
それは、
彼がかつて失った記憶の底に眠っていた、大切な人の言葉。
霞の向こう側に隠されていた、温かくて、でも痛いほど切ない記憶のピースが、あたしの言葉をきっかけにカチリとはまった。
「……あ」
無一郎の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「無一郎くん! ど、どうしたの? 具合悪いの……っ!?」
慌てるあたしの両肩を、彼は壊れ物を扱うような手つきで、そっと掴んだ。
「……思い出した。今の言葉、僕の大切な人が言ってたんだ」
霞が完全に晴れた彼の瞳は、吸い込まれるほど澄み渡っていた。
「君は……君はいつも、僕が一番欲しい言葉をくれるんだね」
あの日、雨の中で彼が漏らした「ずっと、こうしていたい」という切実な願い。
それが今のあたしの脳裏にも、鮮明に、熱を持って蘇る。
無一郎は涙を拭いもせず、愛おしそうにあたしを見つめた。
「確信したよ。僕は、君に会うために今まで生きてきたんだと思う」
逃げられないほど真っ直ぐな、好意の告白。
あたしも、彼から目を離すことができなくなっていた。
ドクン、と心臓が大きな音を立てる。
霞の少年はもう、どこにもいない。
そこにいたのは、ひとりの少女を心から愛することを決めた、一人の剣士だった。
時は巡り、新しいイノチと共に賑やかな生涯を過ごすストーリーへと繋がる…
【完】