第11章 (続)聖者の熱、ヒーローの独占欲【ヒロアカ/出久夢】
「じゃあ、文化祭の準備、よろしく頼むな! 」
「うん、任せて!」
普通科のクラスメイトである男子生徒と、廊下で軽く肩を叩き合って別れる。
ただの役割分担の確認。けれど、その直後だった。
あたしの背後の空気が、キン……と凍りつくような緊張感に包まれたのは。
「……さん」
聞き慣れたはずの声。けれど、そこにはいつもの明るい響きが欠片もなかった。
振り返ると、そこには出久くんが立っていた。
緑の瞳は笑っていない。
むしろ、あたしを飲み込もうとするような、深く暗い熱を宿している。
「い、出久くん! 練習の休憩?」
「……今の、誰? すごく親しそうだったけど」
彼は一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
壁に背中がついた瞬間、出久くんの両手が、あたしの顔の横に力強く置かれた。
いわゆる「壁ドン」の形。
でも、彼から放たれる気迫は、甘いものじゃなくて「威嚇」に近い。
「ただのクラスメイトだよ、文化祭のことで……」
「……触られてたよね。肩」
「えっ、それは挨拶というか、流れで……」
出久くんが、あたしの首筋に顔を埋めた。
彼の吐息が直接肌に触れて、心臓が跳ね上がる。
「……嫌だな。さんの身体に、僕以外の匂いがつくの。……僕だけのものなのに」
低い、掠れた声。
そのまま彼は、あたしの耳たぶを甘噛みするように啄んだ。
「っ、出久くん、ここ学校だよ……っ」
「分かってる。でも、あんな風に誰にでも無防備に笑いかけるさんが悪いんだ」
彼は首筋に、わざと目立つような「痕」を刻みつけるように唇を押し当てる。
あんなに純粋だった彼が、あたしのことになると、これほどまでに余裕をなくして、独占することに固執するなんて。
「……この痕が消えるまで、誰とも喋っちゃダメだよ」
顔を上げた彼の瞳は、獲物を仕留めた後のように、どこか満ち足りた光を湛えていた。
その「聖者」の仮面の下にある執着に、あたしは恐怖よりも、抗えないほどの愛しさを感じてしまうのだった。
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