第9章 【後半】偽りの残照:檻の中の無一郎【鬼滅/無一郎夢】
穏やかな、けれど逃げ道を一切許さない峻烈な声。
私は血の味を感じるほどに唇を噛み締め、震えながら、すべてを吐き出した。
鬼を拾ったこと。姿を変えると言われ、彼を思い浮かべたこと。偽物が、決して手に入らないはずの「愛」を囁いてくれたこと。
「……気持ち悪いですよね……ごめんなさい……っ。幻想だって、分かってたのに……手放したくなかったんです……」
吐き出した本音は、泥のように濁り、惨めで、救いようがなかった。
罵倒を、あるいは死を覚悟して両手で顔を覆った。けれど。
「気持ち悪いなんて、思わないよ」
予想だにしない言葉に、指先の震えが止まった。
恐るおそる指の隙間から覗き見ると、そこには凪いだ水面のような師匠の瞳があった。
「本物を求めるのは、当たり前でしょ。君がそれだけ僕を欲しかったのなら、責める気にはなれない。でも」
師匠はわずかに目を伏せ、冷ややかな声音で続けた。
「君が甘えていたのが、僕じゃなくて偽物だなんて……ずるいな」
「……ずるい?」
弱々しく聞き返した言葉を遮るように、彼は私の手をそっと握った。
幻にはあり得ない、確かな体温。
「君が稽古後にどこへ行っているのか、ずっと気づいてたよ。瘴気が漏れていたからね。……任務に出た君の跡をつけて、蔵に入ったら、そこに鬼がいた」
師匠の指が、私の指を絡め取るように深く組み合わされる。
「そいつ、命を乞いながら僕に言ったんだ。『好きな女になってやる』って」
心臓が止まるかと思った。私に言った言葉と、鏡合わせの誘い。
師匠はわずかに口元を緩めた。幻でも見たことのない、危うい微笑み。
「僕、恋とか愛とか、正直よく分からないんだ。だからあの日、君の告白も断った。でもね、あれを見たとき――君の姿になった偽物を見たとき。皮肉だけど、自分の気持ちに気づいたんだ」
淡い声が、夜の静寂を切り裂いて告げる。
「……好きだよ」
*