第8章 【中半】偽りの残照:檻の中の無一郎【鬼滅/無一郎夢】
情けない。拒絶の言葉が出てこない。
生暖かい感触が傷口を這い回るたび、全身が痺れるような快楽に支配される。
「ありがとう。君のは、甘いね」
頬を染め、恍惚の表情で囁くその顔は、私が幾度も夢に見、焦がれ続けた師匠そのものだった。
それからだ。
檻の中の無一郎くんが、ことあるごとに私の血を欲しがるようになったのは。
最初は任務で負った傷口を差し出すだけだった。汗と泥にまみれた包帯を解き、にじむ赤を舌にさらわれる。そのたびに、「ありがとう」「愛してるよ」という呪いのような言葉が、罪悪感と安堵で胸を満たした。
だが、それでは足りなくなっていった。
もっと欲しい、と強請るような視線に抗えず、私は台所の包丁を手にするようになった。
浅く、皮膚を裂くだけの傷を作る。刃が走るたびにひやりとした痛みが走り、次いで鮮やかな赤がにじみ出す。
「ここにいるのは、君と僕だけだよ。自分を責めないで。君はただ、僕に愛をくれているだけなんだから」
囁きは甘く、そして刃よりも鋭く私を切り刻む。
私は抗えず、何度も、何度も、彼に「愛」を与え続けた。
師匠、ごめんなさい。
あなたを裏切り、冒涜して、ごめんなさい。
心の中で幾度も謝罪を繰り返しながら、私はこの甘美な囁きから逃れることができなかった。
傷が増えるたびに、白い包帯が重ねられていく。醜い痕を隠すように、幾重にも。
特に腕は、もう誰にも見せられる状態ではなかった。
けれど、昼の稽古のたび、師匠の眼差しが私の「核心」に触れるのを感じる。
「……それ、どうしたの」
師匠の淡々とした問いかけに、背筋が跳ね、額にじわりと脂汗が滲んだ。
私は咄嗟に袖を引き、視線を地面へと逸らす。
「……任務で作った傷が、なかなか治らなくて」
そう答えるしかなかった。本当のことなど、口が裂けても言えるはずがない。
檻の中のあなたに、身も心も、血の一滴まで奪われているなどと知られてしまえば――
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