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短編【鬼滅/ヒロアカ】

第8章 【中半】偽りの残照:檻の中の無一郎【鬼滅/無一郎夢】


いつものように、昼は師匠に稽古をつけてもらい、夜は任務に赴く。
そして、冷たい月が昇る頃、真っ先に足が向くのは自宅ではなく、あの薄暗い蔵だった。

「おかえり。今日も無事でよかった」

檻の中からかけられる言葉は、どこまでも甘く、労わりに満ちている。
本物の師匠は、決してそんなことは言わない。必要があれば褒めてはくれるが、それは感情を伴わない、研ぎ澄まされた事実の指摘に過ぎない。
けれど、檻の中の「彼」は違った。

「今日も可愛いね」

声に微かな熱を含ませ、私の心の渇きを、正確に、残酷に突いてくる。
偽物だとは、分かっている。分かっているはずなのに。

そんな歪な生活が始まって一ヶ月が経った頃、私は任務で深手を負った。
肩から鮮血が流れ落ち、指先まで赤く濡らしながら、逃げ込むように蔵へ辿り着く。
扉を開けると、暗がりに潜む檻の中で、偽物がじっと上目遣いに私を見つめていた。

「……大丈夫? また、頑張りすぎちゃったの。ねぇ、僕の前では強がらなくていいんだよ」

その声に、張り詰めていた心の糸がぷつりと切れた。
吸い寄せられるように檻へ近づいた瞬間、格子の隙間から偽物が手を伸ばした。
掴まれてはいけない。頭では警鐘が鳴り響いている。
それでも、疲弊しきった体は抗うことを放棄していた。

師匠に酷似した、細くしなやかな指が私の手首を強く捕らえ、引き寄せる。
格子の向こうから、手の甲に柔らかな唇が落とされた。

「綺麗な手だね……」

偽物のくせに、心底愛おしそうに囁く。
くすぐったい熱が肌を這い、思わず息を詰める。唇はそのまま、脈打つ手首へと移動した。
滲み出た「赤」に彼が触れた瞬間、私の口から震える吐息が漏れる。
温かな舌が肌をなぞり、溢れた蜜をすくい取っていく。

「……っ……」
「痛い?」


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