第5章 何気ない日常の幸せ【ヒロアカ/出久夢】
ぽかぽかとした春の陽気に誘われて、窓から差し込む光が障子に柔らかな模様を描く。
畳の上に座布団を敷き、小さなちゃぶ台を挟んで向かい合うのは、あたしと、隣で優しく微笑む出久くんだった。
「ふふ、ねえ出久くん。まさかあなたが、こんなに素敵なお団子を用意してくれるなんて」
テーブルには、湯気の立つお茶と、みたらしと餡の二種類のお団子が並んでいる。
桜の花びらがちらほら舞い込むこの部屋は、まるで小さな縁側カフェのようだ。
「えへへ、さんが喜んでくれるかなって思って! こ
の間、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんが美味しいって言ってたお店のなんです」
少し照れながらも、嬉しそうに報告してくれる出久くん。
あたしはみたらし団子を一本手に取り、出久くんの瞳を見つめた。
「あーん、してあげる」
「えっ!? い、いいの!? 僕が食べてもいいの!?」
顔を真っ赤にして、まるでヴィランと戦うときのように真剣な表情になる出久くんが、なんだか面白くて可愛らしい。
「もちろん。いつも頑張ってる出久くんへの、あたしからのご褒美」
差し出したお団子を、彼は恐る恐る、けれど嬉しそうに口に含む。
「……! 美味しい! 甘じょっぱい味が、口いっぱいに広がります!」
きらきらと目を輝かせながら感想を述べる出久くんに、あたしもつられて笑みがこぼれる。
「ねえ、さん」
出久くんが、ちゃぶ台の下でそっとあたしの手を握った。
彼の掌は、普段ヴィランと戦っているとは思えないほど柔らかくて、温かい。
「こうしてさんと一緒にいると、なんだか心が落ち着きます。なんでもない時間が、一番大切だなって」
緑の瞳は、まるで春の陽光そのもののように、優しく、まっすぐにあたしを映している。
「あたしもだよ、出久くん」
あたしも彼の手に自分の手を重ね、ぎゅっと握り返した。
窓の外では、ひらひらと桜の花びらが舞い落ちる。
最強のヒーローを目指す彼と、普通のあたし。
特別なことなんて何もない、だけどこの上なく幸せな、ふたりの時間が流れていた。
【完】