第3章 鋼の心と、優しい掌【鬼滅/子鉄夢】
いつの間にか隣に立っていた無一郎が、しれっと、けれど力強くあたしの腰を引き寄せた。
「え……? 時透さん、何を……」
「この子は僕の『お嫁さん』になる人だから。君の家族枠に空きはないよ」
「な、ななな……!? 何言ってるんですか、この昆布頭!! 先に約束したのは僕です!!」
「約束じゃなくて、事実を言っただけだよ」
無表情で火花を散らす無一郎と、顔を真っ赤にして食い下がる子鉄くん。
二人にあたしの左右の腕を引っ張られ、あたしはまさに「両手に花」ならぬ「両手に修羅場」状態。
そこへ、さらなる嵐が舞い込んだ。
「ちょっと二人とも!! ちゃんを独り占めするなんてズルいわ!!」
蜜璃ちゃんが、あたしたちの間に全力でダイブしてきた。
「私の可愛い妹なんだから、私のお家に連れて帰るの! 一緒に桜餅を食べて、可愛いお洋服をたくさん着せるんだから! ねっ、ちゃん、私と結婚しましょう!?」
「蜜璃ちゃんまで何言ってるのー!!」
「ダメだよ甘露寺さん、僕のだから」
「いいえ! 僕の未来の嫁です!!」
「私のよー!!」
右に左に、挙句の果てには抱擁に。
みんなにあたふたと振り回されながら、あたしはこらえきれずに吹き出した。
鬼との戦いは怖かったし、死にかけたけれど。
(……あぁ、幸せだな)
青く澄み渡った空の下、大好きな人たちの笑い声が響く。
わたしは、自分を引っ張り合う三人の手を優しく握り返した。
「みんな、大好きだよ!! また絶対に、会いに行くからね!!」
刀鍛冶の里を後にするあたしの背中には、いつまでも、あたたかくて騒がしい「家族」の声が追いかけてきていた。
【完】