第3章 鋼の心と、優しい掌【鬼滅/子鉄夢】
「あはは、もう限界だね。その腕、次は根元から切り落としてあげようか」
鬼の爪が、あたしの喉元へ迫る。
体は重く、視界は血に染まって霞んでいる。
刀を握る指先の感覚も、もうほとんどなかった。
「……っ、まだ……だ……っ」
背後で子鉄くんが叫んでいる。
けれど、その声すら遠のいていく。
死が、すぐ隣で口を開けていた。
――その時だった。
「……僕の大切な仲間に、何してるの?」
「もう大丈夫よ! 遅くなってごめんなさいね!」
冷徹なほどに静かな声と、弾けるように明るい声。
二つの強烈な風が、あたしと鬼の間を割って入った。
「……っ、無一郎! 蜜璃ちゃん!」
あたしの目の前で背中を見せたのは、霞柱・時透無一郎と、恋柱・甘露寺蜜璃だった。
無一郎の放つ霞の衣が鬼の視界を遮り、蜜璃さんのしなやかな刃が、鬼の爪を紙屑のように切り刻む。
「、よく頑張ったね。あとは僕に任せて」
無一郎は振り返らずにそう言ったけれど、その背中からは、かつてないほどの静かな怒りが溢れていた。
「女の子をこんなにボロボロにするなんて……許さないんだから! 覚悟しなさい!」
蜜璃さんの愛の鞭が、地鳴りのような轟音とともに鬼を追い詰めていく。
「無一郎……蜜璃さん……」
安堵で膝をつきそうになったあたしを、小さな体が必死に支えてくれた。
「……バカ! だから言っただろ! 無事か!? 生きてるのか!?」
子鉄くんが涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、あたしの肩を掴んで揺さぶっている。
「……うん、生きてるよ。子鉄くん……」
「当たり前だ、死なせねーよ! ほら、柱の人たちが道を作ってくれた! 今のうちに下がるぞ!」
前方では、二人の柱による圧倒的な猛攻が始まっていた。
霞が舞い、恋の華が咲き誇る。 絶望に塗り潰されそうだった里に、今、反撃の狼煙が上がった。
あたしは子鉄くんの手に支えられながら、その背中を真っ直ぐに見つめていた。
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