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『はつこい』

第13章 『 負けられない理由 』


ドリブルをつきながら、凛人は一度だけ深く息を吸った。

(大丈夫)

相手ディフェンスが前に出てくる。
フェイントを入れ、横へ流れる。

だが、パスを出した瞬間、わずかにタイミングがずれた。

「しまっ――」

ボールが相手の手に当たり、ラインを割る。

会場が小さくざわついた。

(……焦ってる)

自分でも分かる。
体は動いているのに、どこかだけ噛み合っていない。

ベンチに戻る途中、蓮が小さく言った。

「珍しいな、お前がそんな顔すんの」

「……してる?」

「してる。力入りすぎ」

蓮はボールを軽く投げてよこす。

「いつも通りやれ。お前、こういうときの方が強ぇだろ」

「……ああ」

コートに戻りながら、もう一度だけ観客席を見る。

咲は、さっきよりも強く手を握りしめていた。
何か言いたそうに、でも声を出せずにいるような表情。

(……大丈夫だ)

自分に言い聞かせるように、拳を軽く握る。

残り時間は、まだある。
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