• テキストサイズ

『はつこい』

第3章 『気になる音』




昼休みのチャイムと同時に、廊下が一気に騒がしくなる。
教室の扉が開いて、人の流れが購買の方へ動き出した。

その波に乗ろうとした瞬間。

「岩田妹」

呼ばれて、思わず足が止まる。
振り向くと、廊下の端に凛人先輩が立っていた。

「おつかれ、何食うん?」

それだけの一言なのに、胸の奥がきゅっとなる。

「お疲れ様です!……クリームパン、です」

少し考えて答えると、先輩は短く「ん」と頷いた。
人混みを一度見てから、私の方に視線を戻す。

「ちょっと、そこで待ってて」
「人やばいし。潰れるから」

言い切りなのに、どこかやさしい。
私は言われた通り、壁際で立ち止まった。

しばらくして、人の波の向こうから先輩が戻ってくる。
手には透明な袋。中に見えたのは、丸いクリームパン。

「ほら」

差し出されたそれを受け取ろうとして、
一瞬だけ、指先が触れた。

「あ……ありがとうございます」

先輩は軽く頷いて、それでもすぐには離れなかった。

「今日、午後から体育だっけ」

「はい。持久走です」

答えると、先輩は小さく顔をしかめる。

「だるいやつじゃん」
そう言って、息だけで笑った。

「ちゃんと食っとけよ」
「午後、もたないだろ」

心配なのか、ただの先輩らしさなのか。
分からないけど、その声が近い。

「……はい。頑張ります」

そう返すと、先輩は「ん」とだけ言って、人混みに戻っていった。

袋の中のクリームパンを見る。
あ、飲み物まで…。

午後の授業も、体育も。
なんだか、ちゃんと頑張れそうな気がした。


理由は、きっと——
購買に行く途中の、ほんの数分。


部活以外で会う先輩。

/ 106ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp