第3章 『気になる音』
☆ 先輩 視点 ☆
購買の列は、正直めんどい。
昼休みは特に、人の多さで気が滅入る。
それでも並んだのは、
さっき廊下で聞いた一言のせいだ。
——クリームパン。
と、前に好きって言ってた飲み物。
袋を受け取って廊下に戻ると、
言った通り、咲は壁際で大人しく待っていた。
人の波に押されないように、ちゃんと端に寄って。
……素直すぎだろ。
「ほら」
差し出すと、少し驚いた顔で受け取る。
指先が触れたのは一瞬だけだったのに、
その感触が妙に残った。
「ありがとうございます」
ちゃんと目を見て言うところも、変わらない。
気づけば、午後の話を少しして、
「ちゃんと食っとけよ」なんて言ってる自分がいた。
大したことじゃない。
ただの先輩としての一言だ。
——そう思って、その場を離れた。
*
午後の授業。
黒板の文字を追いながら、ふと視線を上げる。
窓の外、グラウンド。
体育の時間らしく、
ジャージ姿の生徒たちが走っていた。
その中に、すぐ見つけてしまう。
咲。
走るのが得意なわけじゃない。
フォームもきれいとは言えない。
それでも、遅れないように必死で前を向いてる。
……ちゃんと食ったかな。
さっき渡したクリームパンが、
ちゃんと力になってたらいい。
気づけば、
チャイムが鳴るまで、ずっと目で追っていた。
理由は、たぶん。
自分でも、まだはっきりしていない。
ただ——
ああやって頑張ってる姿を見ると、
目を離すのが、少し惜しかった。
部活以外で会う気になる子。