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『はつこい』

第12章 『"待つ" 時間も幸せ』


咲は、繋いだままの手を少しだけ握り直し、小さな声で言った。

「寂しい…先輩がいないと寂しいので…」

凛人が視線を向ける。

「早く元気になってください。じゃないと、サメさんぎゅーしすぎて、ぺちゃんこです…」

少し拗ねたような、でも照れた声。

凛人は一瞬黙り、それから小さく息を吐いた。

「…咲。さすがに我慢できないわ」

「え…?」

「でも…移ったら俺、双子に殺られる…」

そう言いながらも、腕は自然に伸びていた。
ふわっと、優しく抱き寄せる。

「先輩…」

胸元に顔が触れる距離。
咲は少しだけ迷ったあと、そっと顔を上げ――

ほっぺに、軽くキスをした。

「…っ」

一瞬、時間が止まったみたいに二人とも固まる。
みるみるうちに、顔が赤くなっていく。

咲は慌てたように視線をそらしながら、小さな声で言った。

「…早く良くなってください、のおまじないです…」

凛人は数秒黙ったまま、それから額を軽く押さえる。

「……逆に、熱あがるわ」

少し笑いながら、でも真剣な声で続けた。

「……好き」

その言葉は、ほとんど独り言みたいな小さな声だったけれど、
すぐ近くにいた咲には、ちゃんと届いていた。
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