第11章 『 "音"と名前のない関係 』
桜が小さく口を開いた。
「……ちょっと、厳しかった?」
隣を歩く蓮が、軽く肩をすくめる。
「いやー? あれくらい言わないと、あいつまだ言わないでしょ。」
「まぁ……それは、そうかもだけど。」
桜は少しだけ苦笑して、前を見たまま続ける。
「……最近、咲さ、ほんと素直になったよね。」
「ん?」
「前はもっと、気持ち隠して我慢するタイプだったのに。
今はちゃんと、不安とか、好きとか、顔に出るし……」
少しだけ柔らかく笑う。
「自分に正直で、可愛くなってきたなって思う。」
その言葉を聞いた蓮は、ふっと笑った。
「凛人が、そうしたんだろ。」
「……認めたくない。」
即答だった。
「はは、正直すぎ。」
「だって悔しいじゃん。妹をあんな顔させてるの、あいつなんだよ?」
「でもさ。」
蓮は少しだけ視線を前に向ける。
「泣かせる原因もあいつだけど、笑わせてんのも、あいつなんだよな。」
桜は一瞬黙って、それから小さく息を吐いた。
「……まぁ、ちゃんと幸せにしてくれるなら、許す。」
「お、保護者発言。」
「うるさい。」
そう言いながらも、桜の表情はどこか少しだけ安心したように緩んでいた。
「……そんなこと言いつつ、蓮も過保護でしょ?」
「は?」
「さっき成瀬に、しっかり釘刺してたじゃん。」
思い出したようにくすっと笑う。
「“中途半端にするな”って、あんな真剣な顔して。」
蓮は一瞬だけ黙って、それから小さくため息をついた。
「……当たり前だろ。」
「おー、出た。お兄ちゃんモード。」
「別に。あいつのことも大事にしてるだけ。」
少し歩きながら、ぽつりと続ける。
「凛人、ああ見えて不器用だからな。
自分のタイミングばっか考えて、咲の不安に気づくの遅れるタイプ。」
桜が「たしかに」と小さく笑う。
「だから言っといた。
“余裕なくなって中途半端なことして泣かせるくらいなら、さっさと覚悟決めろ”って。」
「……やっぱり過保護じゃん。」
「うるせぇ。」
少しだけ照れたように目を逸らしてから、蓮は肩をすくめた。
「まぁでも――」
軽く笑う。
「大丈夫、あいつ、今日でほぼ覚悟決まった顔してた。」