第11章 『 "音"と名前のない関係 』
抱きしめられたまま、しばらく沈黙が続いたあと、
咲が小さく口を開いた。
「……ワガママ、言っていいですか?」
「ん? なに……」
腕の中で、少しだけもじもじと体が動く。
「……先輩がモテるの、かっこいいし……分かるから、しょうがないけど……」
声がだんだん小さくなっていく。
「抱きついたり、触れたりするの……見ちゃうと……」
ぎゅっと、制服の裾を掴まれた。
「“わたしの……”って思っちゃうから……先輩から、他の女の子に触れちゃ……やだ……」
最後のほうは、ほとんど聞こえないくらいの声だった。
一瞬、言葉を失う。
それから、思わず小さく笑ってしまう。
「……可愛すぎるだろ。ばか。」
咲が「え……」と顔を上げた瞬間、
距離が思った以上に近いことに気づく。
無意識に、少しだけ顔を寄せてしまっていた。
(……っぶねぇ)
そこで、はっと我に返る。
(さっき、中途半端なことしないって決めただろ)
ギリギリのところで動きを止めると、
咲が不思議そうにこちらを見て顔を赤らめ小さく首をかしげた。
「……先輩、チューしないの……?」
一瞬、思考が止まる。
「ばか。煽るな……」
苦笑しながら、もう一度しっかり抱き寄せる。
「……今度な。」
そう言われて、咲は一瞬きょとんとしてから、
少しだけ顔を上げる。
それから、頬をほんのり赤くして――
「……うん…!」
嬉しそうに、小さく頷いた。
その表情があまりにもまっすぐで、
凛人は思わず目を細める。
(……ほんと、危ない)
離したくなくなる。
けれど、今ここで流されるわけにはいかないと、
自分に言い聞かせるように、そっと頭に手を乗せた。
「……ちゃんと、待ってろ。」
「はい……」
少しだけ甘えた声で返事をする咲を見て、
胸の奥がまた静かに熱くなる。
(……絶対、勝つ)
そう、強く思った。