第11章 『 "音"と名前のない関係 』
放課後の校舎裏は、いつもより静かだった。
昇降口から出てくる生徒の中に、小さな見慣れた姿を見つけた瞬間、凛人は迷わず声をかける。
「咲。」
びくっと肩が揺れて、咲が振り向く。
少しだけ目元が赤いのを見て、胸の奥が痛んだ。
数歩近づいて、まっすぐ目を見る。
「……ちゃんと断ったから。」
それだけを先に伝える。
咲は一瞬、驚いたように目を見開いて、それから小さく視線を落とした。
「……先輩。」
か細い声が続く。
「私……凛人先輩の、なんですか……?」
震えた声に、言葉が詰まる。
分かっていた。
いつか、聞かれるって。
中途半端なまま隣にい続ければ、こうなるって。
「……ごめん。」
ゆっくり、息を吐く。
「ほんと、ごめん。」
俯いたままの咲の肩が、小さく揺れた。
その姿を見た瞬間、もう距離を取る理由なんて見つからなくて、
凛人はそっと腕を伸ばし、そのまま抱き寄せる。
「……好き。」
自分でも驚くくらい、真っ直ぐな声が出た。
「今度、もっとちゃんと言うから。……待っててほしい。」
胸に顔を埋めたまま、咲が小さく息を吸う。
「……今度って、いつですか……?」
少しだけ不安の混じった声。
凛人は抱きしめる腕に少しだけ力を込めて、はっきりと言った。
「今度の試合、絶対勝つから。」
一度、言葉を区切る。
「勝ったら、ちゃんと言う。……だから今は、待っててほしい。」
胸の中で、咲が小さく頷く気配がした。
その反応に、凛人はやっと少しだけ息をつく。
(……もう、逃げない)
心の中で、静かにそう決めながら、
離れないように、もう一度だけ強く抱きしめた。