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『はつこい』

第11章 『 "音"と名前のない関係 』


☆ 凛人視点 ☆

「ごめん。気持ちは嬉しいけど、無理。」

できるだけはっきり、短く伝える。

腕にしがみついていた手をそっと外し、一歩下がった瞬間――
人混みの向こうに、見慣れた姿が見えた。

(……咲)

胸が一気にざわつく。

今の、見てたかもしれない。
そう思った瞬間、心臓の音がうるさくなる。

「成瀬くん、まだ――」

「悪い、急いでる。」

それだけ言って、人の間を抜ける。

さっきまで見えていたはずの小さな背中を探して、視線を走らせる。

(どこだ……)

見つけた。

桜の隣で、
咲は小さく俯いたまま立っていた。

すぐにそっちへ向かう。

けれど、俺に気づいた瞬間――

「……大丈夫です。」

咲は、そう言って小さく笑った。

「用事、思い出したので……失礼します。」

一歩、後ろに下がる。

「咲、待――」

呼び止める前に、
細い背中は人混みの向こうへ消えてしまった。

追いかけようと足を動かした瞬間、
隣から静かな声が落ちてくる。

「……成瀬。」

振り向くと、桜がじっとこっちを見ていた。

「あの子、もう限界だよ。」

胸の奥が、ドクンと重く鳴る。

「早くしないと、あの子……気持ちに潰されそうだよ。」

何も言えない俺に、
さらに真っ直ぐな声が続く。

「中途半端にするな。」

その一言が、思った以上に深く刺さった。

――分かってる。

今度、バスケの試合がある。俺の中で区切りな試合
それが終わったら告白する気でいた。どうせなら勝って俺の彼女にしたい、ただのワガママだ。
ワガママで好きな子を困らせて不安にさせて……かっこわる。


拳を強く握る。

(……もう、逃げない)

心の中で、小さくそう決めた。
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