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『はつこい』

第9章 『 高鳴るふたつの音 』


咲の家

玄関のドアを閉めた瞬間、まだ胸の鼓動が落ち着かなくて、咲は小さく息を吐いた。

手に持っていた袋からサメのぬいぐるみを取り出す。

「……先輩……」

思い出しただけで、また顔が熱くなる。

そのとき、リビングから声が聞こえた。

「おかえりー!」

咲はぬいぐるみをぎゅっと抱えたままリビングへ入る。

「どうだった?水族館!」

「楽しかった?」

双子が身を乗り出して聞いてくる。

咲は少しだけ口を開きかけて――次の瞬間、近くにいた姉にぎゅっと抱きついた。

「え、ちょっ、どうした!?」

「……ドキドキして、死んじゃうよ……」

小さく、でも本気で困ったような声。

「えぇ!?なにそれ、なにされたの!?」

「なにもされてない……でも……」

顔をうずめたまま、さっきの帰り際を思い出して、さらに耳まで赤くなる。

「……優しすぎて、無理……」

双子は一瞬顔を見合わせてから、ニヤッと笑った。

「はいはい、なるほどねー」

「これは完全に進展しましたねー」

「ち、違うから!」

慌てて顔を上げる咲の腕の中で、サメのぬいぐるみがぎゅっと潰れていた。


その頃

凛人:家まで送った。
蓮:おつかれ! 咲、楽しそうだったぞー!
凛人:良かった。蓮、俺やばいかもしれん。
蓮:なになに?笑 進展やばい?
凛人:余裕ない。
蓮:あちゃ〜笑
 付き合うまで手出すのは兄として許しません!笑
凛人:わかってる。だから止めた。
蓮:お、えらいじゃん。
……でも顔、たぶんニヤけてるぞ今。
凛人:うるさい。

蓮にLINEを返しつつ

咲のアイコンが目に入った。

小さな、サメのぬいぐるみ。

一瞬、思考が止まる。

(……もうアイコンにしてる)

思わず口元がゆるんだ。

(ほんと、かわいすぎだろ)
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