第9章 『 高鳴るふたつの音 』
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館内アナウンスが流れる。
『まもなく閉館のお時間です――』
「……もう帰る時間ですね」
「だな」
外に出ると、夕方の少し冷たい風が吹いた。
改札の前まで来たところで、凛人が少し迷うように言う。
「……やっぱ、家まで送る」
「え?」
「もうちょい、一緒にいたい」
咲は少し驚いたあと、柔らかく笑った。
「……はい」
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家の前。
「今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ」
少し間が空く。
そのとき、凛人が思い出したようにポケットから出した。
「そうだ、これ」
差し出された小さな袋。
「え?」
中を見ると、サメのぬいぐるみ。
「……これ、さっきの」
「ペンギン買いに行ってるときに買った」
「どうして……?」
凛人は少し照れたように視線を逸らす。
「『可愛い』って言ってたから」
その瞬間、咲の頬が一気に赤くなる。
「……聞こえてたんですか」
「まあ、近かったし」
咲はぬいぐるみを胸の前でぎゅっと抱えながら、小さく言う。
「……これ、先輩にちょっと似てるなって思ってました」
「え?」
「目つき、ちょっとだけ」
言いながら恥ずかしくなり、視線を下げる。
凛人は一瞬驚いたあと、小さく笑った。
「じゃあ、これ見たら俺思い出すってこと?」
「……はい」
その答えに、胸の奥がじんわり温かくなる。
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