第9章 『 高鳴るふたつの音 』
クラゲの水槽をしばらく眺めたあと、凛人が少し考えるように視線を上げた。
「次、なんかあっかなー?」
館内マップをちらっと見て、小さく笑う。
「……あ、イルカショーそろそろ始まるっぽい」
「ほんとですか?」
「うん。今行けばちょうどいいかも」
咲の表情が少し明るくなる。
「行きたいです!」
「じゃあ行くか」
歩き出そうとして、凛人は一瞬だけ繋いだ手を見た。
そのまま、当たり前みたいに握り直す。
(……もう、いいよな。これは)
通路を進みながら、咲が少し楽しそうに周りを見回す。
「イルカショー、久しぶりです」
「俺も。小学校の遠足以来かも」
「え、先輩もですか?」
「うん。水族館が久々だなー」
そんな他愛ない会話をしながら、外のショースタジアムへ向かう。
外に出ると、少しだけ潮の匂いがして、遠くから水しぶきの音が聞こえてきた。
「……なんかテンション上がりますね」
咲が少し笑いながら言う。
凛人も同じ方向を見ながら、小さく頷いた。
「分かる。デートっぽい」
言ったあと、しまった、という顔を一瞬だけする。
「……あ、いや、別に――」
慌てて言い直そうとしたとき、咲が小さく笑った。
「はい。デートです」
その一言に、凛人は一瞬言葉を失う。
(……さらっと言うのずるい)
照れ隠しみたいに前を向きながら、
「……じゃあ、いい席取らないとな」
とだけ言って、少し歩く速度を上げた。