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『はつこい』

第9章 『 高鳴るふたつの音 』


そのまま水槽の前に立つと、咲が小さく声を上げた。

「かわいい……」

ペンギンたちは水の中を勢いよく泳いだり、陸の上をよちよち歩いたりしている。

その中で、岩の上に並んでじっと立っている二羽が目に入った。

同じ向き、同じ姿勢で、まるで相談でもしているみたいに動かない。

「あ」

咲が少し笑いながら指をさす。

「先輩、あの二羽」

「ん?」

「双子にちょっと似てません?」

凛人も見た瞬間、思わず笑った。

「……似てる。なんか雰囲気そのまんま」

「ですよね。片方ちょっと偉そうで」

「もう片方、横でなんか言ってそう」

二人で小さく笑う。

その拍子に、咲の手がほんの少しだけ動いて、繋いだ指を軽く握り返した。

一瞬、言葉が止まる。

(……今、握ったよな)

横顔を見ると、咲はペンギンを見たまま、少しだけ耳を赤くしていた。

「……迷子防止、ですよね」

小さな声。

その言葉に、胸の奥がぎゅっと締まる。

(そんな理由でもいい。むしろ助かる)

凛人は少しだけ指に力を込めて、握り直す。

「……今日はちゃんと捕まえとく」

「ふふ、逃げませんよ」

その返事が思ったより柔らかくて、心臓がまた強く鳴る。

(ほんと、無防備にこういうこと言うのずるい)

ペンギンを見て笑っている咲の横顔を、ほんの一瞬だけ見つめる。

(今日、手、離したくねぇな)

口には出さず、ただ繋いだ手だけを少しだけ確かめるように握り直した。
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