第9章 『 高鳴るふたつの音 』
「咲」
「こっち」
そのまま軽く引き寄せる形になり、二人の距離が一歩近づく。
「あ……ありがとうございます」
「この辺、混んでるから。はぐれると面倒だし」
そう言いながらも、手は離さない。
咲も少しだけ視線を落としてから、小さく頷いた。
「……はい」
そのまま並んで歩き、曲がり角を抜けると、目の前にペンギンの展示が広がる。
「わぁ……ペンギン!」
繋いだ手のまま、咲が少し前に身を乗り出す。
凛人はその様子を見て、ほんの少しだけ笑った。
「そんな急がなくても逃げないって」
ペンギンの展示スペースに入ると、咲が少しだけ歩く速度を上げた。
「先輩、ペンギンです」
子どもみたいに少しだけ前のめりになる背中を見て、凛人は小さく笑う。
(ほんと、分かりやすいな)
人が多く、通路は少しだけ狭い。
誰かと肩がぶつかりそうになった瞬間、凛人は自然に手を伸ばした。
「咲、こっち」
軽く手を取って自分の隣に引き寄せる。
「あ……すみません」
「…混んでるし」
(このまま、ぎゅーってしたいな。)
諦めて、手を繋いで歩き出す。
横を見ると、咲は少しだけ視線を下げて、でも嫌がる様子はない。
むしろ、ほんの少しだけ指先に力が入った気がした。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
(やば、これだけでこんなドキドキしてんの俺だけ?)