第9章 『 高鳴るふたつの音 』
休日の朝、駅前は思っていたより人が多かった。
改札の柱にもたれて待っていると、遠くから小さく手を振る姿が見える。
「先輩、お待たせしました!」
少し息を切らして駆け寄ってきた咲を見た瞬間、凛人は一度言葉を失った。
白のワンピースに水色シャツ。
(……おい、マジか)
自分の腰に巻いているシャツも、ほとんど同じ色だった。
「え、あれ……」
咲も同じことに気づいたらしく、目をぱちぱちさせる。
「先輩、それ……」
「いや、俺も今気づいた」
一瞬の沈黙のあと、咲が小さく笑う。
「なんか……お揃いみたいですね」
その一言で、凛人の心臓が一気にうるさくなる。
(やば、ちょっとテンション上がった)
顔に出ないように軽く咳払いをして、
「……行くか、水族館」
そう言って歩き出した。
館内に入ると、青い光に包まれた空間が広がる。
大きな水槽の前で、咲は子どもみたいに目を輝かせた。
「わぁ……すごい……」
ガラスに少し近づいて、ゆっくり泳ぐ魚を目で追う。
その横顔を見て、凛人は水槽ではなく咲の方を見てしまう。
(楽しそうでよかった)
「先輩、見てください。あの魚、ちょっと変わった形してます」
「ん? どれ」
自然に距離が近づく。
肩が軽く触れそうになって、咲がほんの少しだけ意識したように視線を泳がせる。
その反応に、凛人の胸がまたざわつく。
「……咲」
「はい?」
「迷子になるなよ。ここ、人多いし」
「子どもじゃないです」
「分かってる。でも、」
少しだけ声を落として、
「見失うの、嫌だから」
そう言うと、咲は一瞬だけ黙ってから、小さく頷いた。
「……はい」
次の大水槽の前は特に人が多く、流れに押されて二人の距離がさらに近くなる。
ぶつからないように咲が少しよろけた瞬間、凛人が咄嗟に腕を伸ばした。