第9章 『 高鳴るふたつの音 』
待ち合わせ時間の十五分前。
まだ誰もいない駅前で、俺は何度目か分からないくらいスマホの時間を確認していた。
(……早く来すぎた)
分かってる。
でも、家にいても落ち着かなかった。
服も三回着替えたし、髪も出る直前にもう一回直した。
別に気合い入れてるわけじゃない――そう思いたいのに、体は正直だった。
(ただの水族館だろ……)
そう自分に言い聞かせる。
なのに、一昨日の帰り道 咲が嬉しそうに笑ってた顔が何度も頭に浮かんで、無意識にため息が漏れた。
(……あんな顔されると、調子狂う)
ポケットに手を入れたまま、改札の方を見る。
まだ来てない。
当たり前だ、時間より早いんだから。
それでも、気づけばまた視線を向けてしまう。
(……早く会いてぇ)
小さく息を吐いた、その時。
人混みの向こうに、見慣れた小さな影が見えた気がして、思わず姿勢を正した。