第8章 『 余裕がなくなる音』
扉が閉まり、倉庫の中に静けさが戻る。
凛人はその場で数秒動かず、軽く顔を覆った。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
(……名前、呼ばれただけだろ)
そう思いながらも、さっきの小さな声が頭の中で何度も繰り返される。
「……りん、と」
思い出した瞬間、もう一度大きく息を吐いた。
「……ずるいのは そっちだろ……」
軽く首の後ろをかき、気持ちを落ち着かせるように天井を見上げる。
「……ふぅ……いくか」
そう呟いて倉庫を出た瞬間。
少し離れた場所の壁にもたれて、腕を組んだ蓮がニヤニヤしながら立っていた。
目が合う。
「……」
「……」
数秒の沈黙。
蓮の口元がゆっくり上がる。
凛人は一瞬だけ目を細めて、先に口を開いた。
「……言うな。」
低く短い一言。
蓮は肩を震わせながら笑いをこらえる。
「いや、まだ何も言ってねぇよ」
「顔で分かる」
凛人は軽くため息をつき、タオルを肩にかけ直した。
「……練習戻るぞ」
そう言って歩き出す背中を見ながら、蓮は小さく呟く。
「はいはい、末期くん」