第8章 『 余裕がなくなる音』
体育館の外、自販機の前。
タオルで汗を拭きながら立っていた凛人の背後から、軽い声が飛んだ。
「いやー、凛人くんモテますねー!」
振り向くと、双子が並んで立っている。
二人ともニヤニヤしていた。
「……なんだよ」
「いや別に?」
「たださ」
蓮が肩をすくめる。
「告白断ったあと、一直線に咲のとこ行ったなと思って」
もう一人も続ける。
「で、数分後にはあの距離感」
「……見てたのかよ」
「そりゃ見るだろ」
二人は顔を見合わせて笑う。
「部員に嫉妬」
「告白されても頭の中別のやつ」
「重症だな」
凛人は小さくため息を吐いた。
「うるせぇ」
そう言いながらも、否定はしない。
双子の一人が少しだけ声を落とす。
「でもさ」
「『嫌でした』って言われたときの顔、やばかったぞ」
「……」
「完全にキュンとしてた」
凛人は少しだけ視線を逸らし、タオルを肩にかけ直す。
「……仕方ねぇだろ」
小さく呟く。
「泣きそうな顔で言われたら、余裕なんか残るかよ」
二人は一瞬黙ってから、同時に吹き出した。
「はい、認めたー」
「末期決定」
「女の子かわいそー」
凛人は軽く舌打ちしながら歩き出す。
「……練習戻るぞ」
背中を向けたままそう言うと、双子の一人が笑いながら肩をすくめた。
「分かりやす」
「お決まりの "普通" がなくなってるぞ〜凛人くん〜」
二人は小さく笑いながら、その背中を追いかけた。