第8章 『 余裕がなくなる音』
☆ 凛人 視点 ☆
放課後、校舎裏。
知らない女子。
「成瀬先輩、好きです」
真っすぐ言われて、凛人は一瞬だけ目を伏せた。
驚きはあったが、迷いはなかった。
「あ〜……ありがとう」
軽く頭をかきながら、少しだけ困ったように笑う。
「好きな奴いるから、ごめん」
女子が少しだけ息を止める。
「……そう、なんですね」
それでも諦めきれないように、もう一度聞いた。
「誰ですか?好きな人って」
凛人はほんの一瞬だけ視線を横にずらす。
頭に浮かんだのは、体育館で動き回る小さな背中。
(……咲)
胸の奥で名前を呼んでから、ゆっくり口を開いた。
「本人にも言ってないのに、言う意味ない」
少しだけ肩をすくめる。
「ごめんだけど、部活いくから。じゃ」
それだけ言って歩き出す。
足を進めながら、ふっと小さく息を吐いた。
(……“好きです”か)
さっきの言葉が、頭の中で少しだけ残る。
(言われてぇーな……)
思い浮かぶのは、やっぱり一人だけだった。
体育館の扉を開ける前、わずかに視線を上げる。
(どうせなら)
心の中で、少しだけ苦く笑う。
(あいつに、言われてぇ)
(さいてーだな。俺)