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『はつこい』

第8章 『 余裕がなくなる音』


長い授業も終わり
楽しい部活の時間だー!!とワクワクした気持ちで
校舎裏へ続く渡り廊下。

体育館へ向かう途中、咲は足を止めた。

少し先に、見慣れた背中が見えたからだ。

(……先輩?)

声をかけようとした、その瞬間。

「成瀬先輩、ちょっといいですか」

女子の声が聞こえた。

思わず足が止まる。
隠れるつもりはなかったのに、柱の影に半歩だけ入ってしまう。

凛人が振り向く。

「なに?」

少し緊張した様子の女の子が、深呼吸してから言った。

「……好きです」

咲の胸が、どくん、と大きく鳴る。

「ずっと前から、先輩のこと――」

それ以上、ちゃんと聞けなかった。

頭の中が少しだけ白くなる。

(先輩……モテるよね…)
(……やだ)

自分でも驚くくらい、はっきりした感情だった。

見ていられなくて、咲は静かにその場を離れる。

体育館の扉を開けても、胸の奥のざわざわは消えない。

ボールの音も、部員の声も、どこか遠く感じた。

(先輩が、誰かと付き合ったら……)

考えた瞬間、喉が少し苦しくなる。

(……嫌だ)

自分の中に、こんな気持ちがあるなんて、今までちゃんと分かっていなかった。

給水ボトルを並べながら、小さく息を吐く。

(私……)

胸の奥をぎゅっと掴まれたみたいな感覚のまま、そっと心の中で呟く。

(……こんなに、嫌なんだ)
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