第8章 『 余裕がなくなる音』
最近、少しだけ調子が狂うことが増えた。
プレーの話じゃない。
バスケはいつも通りだ。
ただ――
視界に入るたび、意識がそっちに持っていかれる。
休み時間、廊下で友達と話している姿。
グラウンドで笑っている横顔。
名前を呼ばれる、ほんの短い瞬間。
「先輩」
その声を聞くだけで、
一瞬だけ返事が遅れそうになる。
(……やばいな)
前までは、もう少し余裕があったはずだった。
距離を測ることも、平気な顔をすることも、難しくなかった。
けれど最近は、少し違う。
目が合うたび、
笑いかけられるたび、
胸の奥で、静かに何かが崩れていく。
――余裕がなくなる音が、確かに聞こえていた。