第2章 『これが『最初の1歩』の音』
――ここからはじまる、最初の一歩
体育館に入った瞬間、
空気が変わった気がした。
ボールが床を叩く音。
シューズが擦れる音。
ホイッスルの乾いた音。
全部が、少しだけ大きく聞こえる。
「……すご」
思わず、声が漏れた。
中学の体育館とは全然違う。
広くて、天井が高くて、
そこにいる先輩たち全員が、まぶしく見えた。
「緊張してる?」
隣で桜が笑う。
私はこくんと頷いた。
「大丈夫だって。
ほら、蓮もいるし」
コートの端で、蓮が手を振っている。
その横に——
いた。
成瀬凛人先輩。
中学二年の冬。
あの試合の日と、同じ背中。
胸の奥が、きゅっと鳴った。
「……」
声を出そうとして、やめた。
まだ、何も始まっていないのに。
「じゃ、紹介するな」
キャプテンの蓮が前に出て、軽く手を叩く。
「今日から入るマネージャー。
俺たちの妹な」
一斉に視線が集まって、
心臓が跳ねた。
「 岩田双子の妹、 咲です!
よろしくお願いします!」
ぺこり、と頭を下げる。
「おー、よろしく」
「妹いたんだ」
そんな声が聞こえる中で、
ただ一人、こちらをじっと見ている人がいた。
——凛人先輩。
目が合った、気がした。
でもすぐに視線を外されて、
胸の鼓動だけが残る。
練習が始まって、
私は必死に先輩たちの動きを追った。
水を渡すタイミング。
タオルの場所。
名前と背番号。
覚えることはたくさんあるのに、
どうしてか、あの人のことだけ
自然と目で追ってしまう。