• テキストサイズ

『はつこい』

第2章  『これが『最初の1歩』の音』


数日が過ぎた。

マネージャーの仕事にも、少しだけ慣れてきて、
練習の流れも分かるようになった。

「 岩田妹、タオル頼む」

「 岩田妹、水」

その呼び方は、毎日変わらない。

分かってる。
悪気がないのも、効率重視なのも。

……でも。

(私、名前あるんだけどな)

胸の奥が、ちょっとだけ、むずむずする。

練習が終わりかけた頃。
思い切って、声をかけた。

「……凛人先輩」

振り返る背中。

「なに?」

少し拗ねた気持ちを、隠しきれないまま。

「凛人先輩って……
私の名前、覚えてますか?」

一瞬、空気が止まった。

その横で、蓮が吹き出す。

「ハハッ、凛人。
試されてるぞー」

視線が集まって、
心臓がどくん、と鳴る。

凛人先輩は、少しだけ困ったように目を逸らしてから——

「…… 咲」

名前を、呼んだ。

「 咲だろ? 知ってる」

その言葉に、胸の奥がほどける。

「……ふふっ」

気づいたら、笑っていた。

「ありがとうございます!」

照れくさくて、
でも嬉しくて。

私はそのまま、少し早足で離れる。

背中に、視線を感じながら。

「……」

蓮が、ぽつり。

「あちゃー。
いい笑顔だことだわ〜」

凛人は答えない。

ただ、
さっきまで聞こえていた体育館の音が、
少しだけ遠くなった気がしていた。
/ 106ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp