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『はつこい』

第7章 『 心が揺れる音 』



ぼんやり見ていると、ふいに誰かが隣に座った気配がした。

「ちゃんと取ったか?」

顔を上げると、紙皿を差し出している凛人先輩がいた。

「肉、余ってたから」

「え、ありがとうございます」

受け取ると、先輩は「熱いから気をつけろよ」とだけ言って、また焼き台の方へ戻っていく。

ほんの少し話しただけなのに、なぜか胸の奥が落ち着かない。

(……なんだろ)

さっきまで離れた場所にいたのに、
こうして時々、当たり前みたいに声をかけられると、妙に意識してしまう。

隣にいた女子の一人が、小さく笑いながら私の肩をつついた。

「咲ちゃんってさ」

「え?」

「成瀬さんに、めっちゃ気にかけられてない?」

「そ、そんなことないよ」

「いや、さっきからちょこちょこ来てるじゃん」

「たまたまだと思うけど……」

言いながら、無意識に焼き台の方へ目を向けてしまう。

ちょうどその瞬間、先輩と目が合った。
一瞬だけ視線が重なって、先輩が「ちゃんと食べろよ」と口の動きだけで伝えてくる。

慌てて視線をそらした。

「ほら、やっぱり」

「ち、違うってば」

笑われて、少しだけ頬が熱くなる。

ペットボトルを持ったまま小さく息を吐き、もう一度焼き台の方を見ると、先輩は今度は別の後輩にトングを渡しながら、いつも通り仲間たちと笑っていた。

(最近、先輩……ちょっと近い)

はじめてのことが、少しずつ増えていて、正直よく分からない。
でも、不思議と嫌じゃない。

むしろ――
こうして同じ場所にいて、たまに声をかけてもらえるだけで、少しだけ嬉しいと思ってしまう。

気づけばまた、私は先輩の姿を目で追っていた。
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