第6章 『 確信になる音 』
小さく息を吐きながら、もう一度だけ廊下に視線を向ける。
咲は、もうこちらを見ていなかった。
友達と並んで歩きながら、楽しそうに何かを話している。
その横顔を眺めているだけで、胸の奥が少しだけ落ち着いて、同時に、少しだけ焦るような感覚が残る。
(……さっきまで、普通に見れてたのに)
好きだと自覚しただけで、
たった一瞬目が合っただけで、
こんなにも意識してしまうなんて思わなかった。
今までの自分なら、廊下ですれ違えば軽く手を振るくらいは出来たはずなのに、
さっきはそれすら出来なかった。
(情けねぇな、先輩なのに)
小さく苦笑する。
でも同時に、はっきりと分かってしまったことがある。
ただ気になっていただけじゃない。
放っておけない後輩だからでもない。
優しくしたいと思う理由も、目で追ってしまう理由も――全部。
(好きだから、か)
胸の奥で、その言葉が静かに落ちる。
そう思った瞬間、不思議なくらい、少しだけ視界がはっきりした気がした。
(……だったら)
このまま、何も変わらないままは嫌だ。
先輩と後輩の距離のまま、
ただ遠くから見ているだけで終わるのは、たぶん――無理だ。
咲の姿が廊下の角を曲がって見えなくなる。
その背中を目で追いながら、ゆっくりと息を吐いた。
(少しずつでいい)
(ちゃんと、近づいていこう)
頬の熱はまだ少し残っているのに、
さっきよりも、気持ちだけは不思議と落ち着いていた。
(もう、止まる気ないし)
小さく笑って、机に肘をつく。
胸の奥では、さっきよりもはっきりした鼓動が、静かに続いていた。