第5章 『 " 普通 " が 動く音』
家の前に着くと、咲が振り返った。
「今日は本当にありがとうございました。送ってもらえて、安心しました」
「ちゃんと水飲んで、今日は早く寝ろ」
「はい」
ドアを開けようとして、咲がふと止まる。
「あの……」
「ん?」
「ジャージ、ありがとうございました。ちゃんと洗って――」
「いい」
途中で止める。
「そのままでいいから、今度持ってこい」
「それより、早く良くなれ。」
無意識に頭をぽんっとして
咲が少しだけ驚いたあと、少し照れくさそうに ふっと笑った。
「……はい」
ドアの前で一瞬だけ視線が合う。
そのまま家の中へ入っていく背中を見送ってから、ゆっくり歩き出した。
(……送っただけだろ)
そう思いながらも、さっき「安心しました」って言われた瞬間の顔が頭に残って離れない。
無事に家に着いただけで、妙にほっとしている自分に気づいて、小さく息を吐く。
――こういうのも、普通って言えるのか。
いや、たぶん。
最近、少しだけ。
「普通」って言葉だけじゃ、足りなくなってきている。