第5章 『 " 普通 " が 動く音』
そう言ったものの、顔色はまだ少しだけ白い。
前方に懐かしの公園が見えて、足を止めた。
「ちょっと座るか」
「え?」
「少し休んだ方がいい」
ベンチを指さすと、咲は遠慮気味にうなずいた。
隣に座ると、夕方の風が少しだけ静かに吹き抜ける。
咲は軽く息を整えるように、手を膝の上で握った。
「まだ少しふらつくか?」
「さっきよりは大丈夫です」
「無理してないならいい」
そう言いながら、自販機で買ってきたスポーツドリンクを差し出す。
「ほら、少し飲め」
「ありがとうございます」
両手で受け取って、小さく一口飲む姿をなんとなく目で追う。
喉を動かして飲んだあと、少しだけ安心したように息をついた。
「先輩が一緒だと、ちょっと安心します」
不意にそんなことを言われて、視線を少し逸らす。
「……普通だろ。送ってるだけだし」
「でも、来てくれなかったら、たぶん一人で帰ってました」
そう言って小さく笑う。
「ちょっと、心細かったので」
その言葉に、胸の奥が少しだけ締まる。
「じゃあ、ちゃんと呼べよ」
「え?」
「体調悪いとき、無理して一人で帰るな。近くにいたら、俺か双子に言えばいい」
少しぶっきらぼうに言うと、咲は少し驚いたあと、やわらかくうなずいた。
ベンチに並んで座る沈黙は、不思議と気まずくない。
数分して、咲がもう一度立ち上がった。
「大丈夫そうです。ありがとうございました」
「歩けそうなら行くか」
再び並んで歩き出す。
さっきより足取りが安定しているのを確認して、少しだけ肩の力が抜けた。
(……送るって言ってよかった)
そんなことを思った時点で、もう自分の中の「普通」が、少し前とは違ってきている気がした。