第5章 『 " 普通 " が 動く音』
凛人にとって、「普通」という言葉は便利だった。
楽しかったとも、嬉しかったとも、落ち着いたとも言わなくていい。
少しだけ気になったことも、もう一度会いたいと思ったことも、全部まとめて「普通」で済ませられる。
「昨日どうだった?」と聞かれれば、
「普通」
「どう思ってるの?」と聞かれても、
「別に、普通」
そう答えておけば、それ以上踏み込まれない。
だからずっと、そうしてきた。
――けど最近、その「普通」の中身が、少しずつ増えている気がする。
窓の外、グラウンドの端を走る小さな姿を見つけて、無意識に目で追ってしまうことも。
家で笑っていた横顔を、ふと思い出すことも。
誰かと楽しそうに話しているのを見て、ほんの少しだけ気になってしまうことも。
全部、言葉にするほどじゃない。
けど、確実に何かが増えている。
(……これも、普通って言えるのか)
小さく息を吐きながら、凛人はもう一度窓の外へ視線を向けた。